精神医療、心理関係者の方へ
PTSDなどの精神科治療
ここでは、精神科の日常臨床における、PTSDとそれに付随する解離性障害などの基本的治療をとり挙げました。
- PTSDの診断
- 事前情報の入手、紹介先など(医療機関、シェルターなど)の情報の確認、適切な面接室など
- DSMあるいはICDなどの診断基準を確認する
- 診断のポイント:DSM IV-TRの場合A基準を満たしているか、BCDの3症状の基準を満たしているか、症状の持続期間は1ヶ月以上かなど
(注:2013年にDSMは第5版(DSM-5)に改訂されPTSDの診断基準は変更されています。)
- PTSDの薬物治療
- 複数のガイドラインがあるが、多くはSSRIを中心とする薬物療法を推奨している
- 日本語で確認できる薬物療法のガイドライン
→IPAP(International psychopharmacology Algorithm Project) PTSD薬物療法アルゴリズム v.1.0
Web版- IPAP Post-Traumatic Stress Disorderアルゴリズムの解説
(http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/explanation.pdf) - PTSD薬物治療アルゴリズム
(http://www.ncnp.go.jp/nimh/seijin/flowchart.pdf)
- IPAP Post-Traumatic Stress Disorderアルゴリズムの解説
- PTSDに伴う不眠には
- PTSD症状(悪夢、過覚醒による)であればPTSD治療薬(SSRIなど)に反応する
- ベンゾジアゼピン系の睡眠薬は依存に注意する
- その他の薬(プラゾシン、トラゾドン、三環系抗うつ薬、オランザピン、クエチアピン、ゾルピデムなど)はエビデンスは確実ではないが有効という報告もある
- 生活や睡眠前行動の見直しを行う
- PTSDの心理療法
- トラウマに焦点をあてた認知行動療法(長時間曝露療法など)やEMDR(眼球運動による脱感作と再処理法)が有効とされている)
- PTSDの治療パッケージとしての要素
- 心理教育
- リラクセーション
- コントロールされた記憶へのアクセス
- トラウマ体験についてのセラピストとの話し合い
- 恐怖による回避行動の軽減
- 認知の修正
- 治療中にフラッシュバックや解離状態になった時は
- 今いる場所や状況の確認したり、感覚刺激(名前を呼ぶ、自分で体を動かすなど)などによって現実に立ち戻らせる
- 解離症状が著しい場合
- 冷静さや感情のなさ、離人感、非現実感が疑われる時はその他の解離症状をチェックする
- 犯罪被害による一時的な解離症状であれば経過観察を行う
- 心理教育(解離は異常な事態を生きのびるための反応の一つであること、PTSD症状とともに軽減すること、頭がおかしくなったわけではないことなど)が必要
- コントロール(対処法)を教える
- 犯罪被害以前の解離性障害の既往、長期重度の虐待被害の場合では重度で慢性的な解離性障害が生じることがあり、その場合は積極的な解離性障害への治療が必要である
- 精神病、パーソナリティ障害、発達障害が疑われる場合
- 上記疾患および併存しているPTSDを正確に診断することが必要
- 精神病症状の治療は非定型抗精神病薬を用いる
- パーソナリティー障害では、治療関係の構築に注意をはらう
- 広汎性発達障害(特にアスペルガー障害)ではPTSD類似症状(鮮明で断片的な記憶、被害的認知と怒り、環境への過敏反応など)が見られるので注意して診断を行う
出典:小西聖子:第二部第三章 犯罪被害者の実践的治療. 小西聖子編「犯罪被害者のメンタルヘルス」, 誠信書房, 2008年. より抜粋