精神医療、心理関係者の方へ
支援をする人の傷つきとその対応
犯罪被害にあわれた方や家族を支援する専門家の数はまだ多くはありません。命の危険があるような体験をした人たちと日常的に接することは、支援をする人たちにとってもストレスを感じることになります。これを専門用語では、「援助者の二次的外傷性ストレス(Secondary Traumatic Stress=STS)」と呼びます。犯罪被害にあった方々に援助者が継続的に安定したケアを提供するために、治療や援助において援助者側の心身に起こり得る状態を知っておくのはとても大事なことです。まずここでチェックリストを挙げましたので、あてはまるところがあるかどうか考えてみてください。
<チェックリスト>
- 被害者面接をする前に、援助者自身の安全感は確保されているか。
- 面接中、通常の面接以上に気持ちが揺れていないか。
- 被害者と必要以上に心理的距離を置きすぎる、もしくは近すぎることはないか。
- 被害者との面接に関わって、些細なことでイライラしたり怒ったりしないか。
- 援助者として、自分は役に立っていないと感じていないか。
- 専門家の相談相手はいるか。
援助者の二次的外傷性ストレス
犯罪被害者の体験を共感的に聴けば聴くほど、援助者側の安全な世界観も脅かされるのは臨床的にはよく理解されるところです。被害者の体験を聴いて数日はその内容やイメージした被害場面が頭にこびりついて離れないということもあるかもしれません。あまりの被害の過酷さ・辛さに圧倒されたり、自分の無力感・罪悪感も引き起こされたりして、それで被害者への支援から全く手を引いてしまうこともあるかもしれません。二次的外傷性ストレスを提唱したFigleyは、これを「配偶者など親しい間柄の者がトラウマとなる出来事を体験したと知ることにより自然に必然的に起こる行動や感情」と定義し、「トラウマを受けた人あるいは苦しんでいる人を支える、支えようとすることにより生じるストレスなので、メンタルヘルスの専門家や援助者もSTSで傷つきやすい」と述べています。
二次的外傷性ストレスの特徴としては、以下が挙げられます。
- 心的外傷後ストレス障害(PTSD)とほぼ同様の症状が現れる
- 何の前触れもなく突然起こる(バーンアウトが徐々におきるのに対し)
- 無力感や困惑、孤立無援感がある
- 回復のペースも速い
援助者に必要な対策・予防策
まずは普段から職場での人間関係が円滑に行われていることがメンタルヘルスの維持には必要ですが、二次的外傷性ストレスが生じている場合には以下のような対策や予防策が考えられます。
- 一人で抱え込まないこと(上司や同僚と話し合える環境を持つ)
- ケースカンファレンス(職場内外)の機会を持つ
- スーパーヴィジョンを受ける
- ケースを相談できる専門家の仲間を持っている
- 自分なりのリラクゼーション方法をもつ
- 診察やカウンセリング業務以外に、事務作業や研究・教育活動を行うなど仕事内容のバランスを点検する
- 援助者自身が外傷的な体験を経験した、あるいは経験している場合は、現在の安全が確保され、かつその体験が過去のものとして整理されていること
出典:山下由紀子:第三部第六章 援助者のメンタルヘルスとその支援. 小西聖子編「犯罪被害者のメンタルヘルス」, 誠信書房, 2008. より抜粋